ホテルの玄関を抜け、湯気が立ち込める露天風呂の通路へと向かう。その瞬間、静寂を切り裂くように心臓が鼓動を早めた。これから二人きりになれる――それだけで、体中が熱くなる。 「こんなに嬉しそうな顔を見たのは初めてかもな」と、彼が低い声で囁いた。少し笑みを浮かべながら、玲子の肩にそっと触れる。その温もりに反応して、玲子の全身が微かに震える。 「そんなことないですよ……でも、今日だけは、誰にも気を使わなくていいって思うと、やっぱり……嬉しいんです。」 頬を赤らめながら、玲子は小さな声で答えた。こんなにも近くにいら ...