「金、信用、そして私の貴重な時間が失われてしまったのだよ」 大会社の社長を前に、震え上がる男がいた。 彼が仕事でミスをして、その話である。 「ここで怒鳴り散らして、負債を負わしても良いのだが…」 社長は男に一瞥する。そして、語る。 「…それで未来の芽を摘むなんてマネは、私の信念に反する。そこでだ」 男は下げた頭に社長の眼差しを感じつつ、次の言葉を待った。 「キミの奥さんを愛人として迎えさせてもらう。 ―――拒否権はない」 男は脳裏によぎった『次期社長の座』という気持ちと『ただひとりの愛妻を渡す』という考え ...